【 ~ 私の介護への想い ~ 】
福祉科教員 Fさん
「介護」がとても身近なものになってきたのは,ここ最近である。86歳を迎えた母が,意識不明で救急車で大学病院に運ばれたとの一報を受けたとき,驚いたよりも覚悟した。
ICUで蘇生が行われ,一命を取り留めたが寝たきり状態になっていた。体中から管が出ていてモニター管理されている,意識は取り戻しているがうつろな視線は天井を見上げたまま。生きているのだろうかと胸の動きを確認すると,かすかに動いていてほっとした。母とは,もしもの時の希望について話した事などなかった。父もまさかそんなことがこんなに早く来るとは思っていなかったらしい。ICUの前で呆然と座っていた。母はそれまで,身体に何かしらの不調はあったが,年相応と考えていたし,家事全般をこなし,何より買い物が大好きで毎日何かしらとストアに出かけては,買い物をして過ごしていた。私達家族は。夫婦が高齢者だとは,認識していたが「介護」が必要になるとは思ってもいなかった。
母は,2週間ほどICUに入院し,循環器病棟へ転院となった。心臓機能の低下が著しくこのままでは1ヶ月も厳しいと言われた。ドクターから「どうされますか」ときかれ,なぜか「在宅で最後まで看ます」と答えていた。今でも,どうしてその言葉があんなにすらすらとでてきたのかわからない。でも,何となく母の気持ちが浮かんできたように感じた。
循環器病棟に1ヶ月入院し,状態が落ち着いたところで,退院した。その間に,もてる知識をフル活用して,介護保険の申請,介護サービスの決定,福祉用具の選定などめまぐるしかった。退院してなんとか自宅のベッドに横になると,母が「あー良かった。家に戻れて」と涙をこぼし喜んでいた。その笑顔を見たとき,母の望む最後に向き合わないといけないと感じた。それから,家族で話し合い,母が在宅で過ごす事についてそれぞれの役割分担をして,日々を過ごしている。いつ何時,状況が変化するか分からない不安の中で過ごしているが,母の日々は穏やかに過ぎているようである。歩行が困難になり,外出が難しく思うように身体を動かせなくなっているが,食べたいものを食べて,欲しいものをねだってくる。口はまだまだ達者で,時に小言も言う。この生活を支えてくださっている訪問介護や訪問看護のスタッフの方々には本当に感謝しても仕切れない。ケアマネージャーさんは,要望をしっかりと受け止めてくださっている。
「介護」は突然やってくる。そのときに「介護を受ける側の気持ち」にいかに寄り添えるかが介護者や家族に求められる。相手の気持ちに寄り添える介護者に出会えることが,より良く生きていくためには必要なことだなとしみじみ感じている。私の老後には,そんな介護者に出会いたい。